三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)は9月2日、三菱UFJ銀行との共催により、ICC公認イベント「MUFG STARTUP NIGHT——M&Aとディープテックを語るミートアップ」をエースホテル京都で開催した。
会場には三菱UFJキャピタルをはじめ、スタートアップ投資や事業共創に携わるMUFGグループのメンバーが集まり、ICCの参加パスを持つスタートアップの経営者や事業開発担当者らと交流した。
当日は2つのセッションが行われた。2025年8月に三菱UFJ銀行の連結子会社となったマネーツリーから代表取締役 創業者のポール・チャップマン氏が、京都の地で大学発ディープテックに挑むオリヅルセラピューティクスから代表取締役兼CEOの野中健史氏が登壇し、MUFGグループによる支援やM&Aの舞台裏を語った。
いずれのセッションもオフレコを前提に進められたため、本稿では当日の様子と、それぞれのテーマの背景をご紹介する。

第1部:マネーツリー買収、当事者が語るその舞台裏

第1部は、オープニングを兼ねたファイアサイドチャット「MUFGが描く金融DX『要の一手』——マネーツリー買収・当事者たちが語り尽くすその裏側/超オフレコICC編」だ。MUIP代表取締役社長の鈴木伸武が聞き手となり、買収の当事者であるポール氏と向き合った。
まず背景を整理しておきたい。三菱UFJ銀行は2025年8月29日にマネーツリーの株式取得を完了し、同社を連結子会社化した。マネーツリーは約650万人のユーザーを抱え、2,500超の金融機関と接続する金融データプラットフォームを提供している。MUFGはこのデータと技術を、約6,000万人の顧客基盤と掛け合わせ、サービスブランド「エムット」を中心とした金融DX戦略の要に据えている。
一方で、マネーツリーをMUFGグループ内に閉じた存在とするわけではない。同社は子会社化後も、金融データプラットフォーム「Moneytree LINK」をMUFGグループ外の金融機関や事業会社にもオープンに提供し続ける方針を掲げている。
両社の関係は長い。
マネーツリーは2015年に三菱UFJキャピタルと接点を持ち、2019年にはMUIPが出資した。その後、三菱UFJ銀行の家計管理アプリ「Mable」での協業を経て、買収の合意までには18カ月に及ぶ交渉があったという。
この10年にわたる経緯は、2025年12月に公開した記事「MUFGが描く金融DX『要の一手』——マネーツリー買収・当事者たちが語り尽くすその裏側」で、鈴木をモデレーターにポール氏とMUFG常務執行役員の山下邦裕氏が詳しく語っている。
今回のセッションは、その記事の続編ではなく、記事では語られなかった部分を扱う「超オフレコICC編」という位置づけだ。会場の中心は、次の資本政策を考えるスタートアップの経営陣である。IPOだけでなくM&Aもエグジットの選択肢となるなか、売り手と買い手の双方に関わった当事者から直接話を聞ける場となった。
第2部:大学発ディープテックの社会実装を、スタートアップ・VC・銀行の3者で

第2部は、特別パネル「大学発ディープテックスタートアップの社会実装加速へ——スタートアップ・VC・銀行の共創」だ。
オリヅルセラピューティクスの野中健史氏、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)執行役員 投資第二部 部長の上野博之氏、三菱UFJフィナンシャル・グループ スタートアップ戦略部 部長の齊藤健一氏が登壇した。
大学発スタートアップであるオリヅルセラピューティクスを題材に、出資の背景や成長支援の実際、社会実装に向けた今後の展望がテーマとなった。
オリヅルセラピューティクスの設立は2021年4月。京都大学と武田薬品工業株式会社の共同研究の成果と革新的なiPS細胞関連技術を活用し、細胞移植による再生医療等製品の開発を進めている。
主要なパイプラインは、重症1型糖尿病を対象としたiPS細胞由来の膵島細胞製品「OZTx-410」と、重症心不全を対象としたiPS細胞由来の心筋細胞製品「OZTx-556」の2つだ。OZTx-410は京都大学医学部附属病院が実施する医師主導治験に治験製品として提供されており、2025年4月には1例目の患者への移植が完了したと発表されている。
資金面では、2024年2月にシリーズBラウンドで約33億円を調達し、第三者割当増資による累計調達額は95億円を超えた。
AMEDの補助金などを含めると、創業以来の累計調達額は100億円を超える。このラウンドには京都iCAPと三菱UFJ銀行がともに参加した。京都iCAPは2号ファンドから5億円を追加出資し、三菱UFJ銀行にとってはシリーズAに続く2回目の出資となった。第2部に並んだのは、同じ会社を支える経営者と出資者だったわけだ。

医師・医学博士である野中氏は、心臓血管外科医としてキャリアを始め、大手製薬会社で開発本部長や研究開発の責任者を歴任したのち、2021年からオリヅルセラピューティクスの代表取締役兼CEOを務める。京都大学の100%出資子会社である京都iCAPの上野氏は、自身も製薬会社で創薬研究と研究開発マネジメントに携わった経験を持つ。

齊藤氏は2001年に三菱UFJ銀行に入行し、シンガポール駐在を経て、シリコンバレーでMUFG米州のスタートアップ投資・事業開発チームを率いた。2022年からはSozo Venturesでスタートアップの成長を支援し、2026年4月にMUFGへ復帰している。

研究成果を事業として患者に届けるまでには、長い時間と大きな資金が必要になる。大学発VC、製薬業界出身の経営者、そしてメガバンクという立場の異なる3者が、どう役割を分担しながら1社を支えているのか。パネルは、ディープテックの社会実装を資金と支援の両面から考える機会となった。ネットワーキングの時間では会場となったエースホテル京都で登壇者と参加者、参加者同士の対話が終了まで続いた。
MUFGグループからは、MUIPに加えて三菱UFJ銀行、三菱UFJキャピタル、三菱UFJアセットマネジメントなど、スタートアップへの投融資や事業共創に携わるメンバーが参加した。M&Aとディープテックという2つのテーマを入り口に、スタートアップと金融グループが出会う機会になったのではないだろうか。