AI×事業承継で挑むバーティカルソフトウェアの自律分散型エコシステム——マイクロニティが描く新しいM&Aのかたち

2026.06.12

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業界特化型のソフトウェアを提供する中小ベンダー、いわゆるバーティカルソフトウェア企業群の多くが、いま「次の経営者をどう見つけるか」という共通の課題に直面している。製造業や飲食業に限らず、1990年代に立ち上がったIT企業の創業者たちが、AI時代を前に世代交代を考え始めているからだ。

そこに「AI×事業承継」という切り口で挑むのが、マイクロニティだ。同社は、こうした国内のバーティカルソフトウェア企業が3,000~4,000社あると見立てている。

M&A後にコストカットを中心に利益を出す従来型のPE(プライベート・エクイティ)ファンドとは異なり、各社と並走しながらAIエージェントによる事業の自動化を進める。2025年4月の設立から約1年で5社をグループ化し、累計22億円を調達、ARRは25億円規模に達した(2026年3月31日同社発表)。

同社代表の山﨑氏は、前身となるメタップスホールディングスを含めこれが3度目の起業となる。

「最後のチャレンジ」(山﨑氏)と語る同社はこのたび、三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)を新たな株主として迎えた。山﨑氏に、創業の経緯から事業モデル、組織設計、そしてMUFGグループとの協業への期待まで話を聞いた。

創業の経緯とAI×事業承継エコシステム——見過ごされてきたIT業界の世代交代

株式会社マイクロニティ 代表取締役の山﨑祐一郎氏

事業立ち上げにあたって山﨑氏が前提に置いたのは、「大きな事業を作るには一番大きい社会課題を解決しなければならない」という考え方だ。国内最大の構造課題として挙げたのが人口減少と、それに伴う後継者問題で、IT業界にも広がりつつある。

日本国内の大きな課題は、やはり人口減少です。人口が減っているところで、後継者問題も出てきています。後継者問題というと、特に中小企業で製造業や飲食業、介護施設などをイメージされる方が多いと思います。
最近は、IT業界でも、1990年代に創業された方々が、そろそろ退任を考え始めるケースが増えてきています(山﨑氏)。

理由は大きく二つある。一つはAIの登場で、「大きなゲームチェンジが起きている、次の世代に引き継ぎたい」と考える創業者層が出てきていること。もう一つはIT業界特有の、比較的若くしての退任だ。サイバーエージェント藤田晋氏の退任もそうだが、50代で社長を退くケースもある。

上場IT企業であれば次の社長を指名すればよいが、未上場の中小企業では引き継ぎ先が見つかりにくい。規模的にPEファンドの対象外になることが多く、また創業者本人としても「競合やファンド、外資系企業には売りたくない」という意向を持つことも多い。

受け皿となるプレイヤーは、これまで国内には少なかった。加えてIT業界には世襲文化が根付いておらず、ナンバー2が株式まで引き継ぐケースもまれだ。

IT業界の場合、2代目、3代目に引き継いでいく文化がそもそもないのと、候補の方がいたとしても、借り入れまでして引き継ぎたいという方がなかなかいないです。実際には株式は譲渡して、ナンバー2の方が社長として引き続き経営するというケースが多いですね(山﨑氏)。

マイクロニティが提唱するのは「AIによる事業承継の新たなエコシステム」の構築だ。同社の事業設計の前提を、山﨑氏は次のように説明する。

これまでは、PEファンドや他の事業承継プレイヤーが、譲受後にコスト削減によって収益性を改善し、第三者に再度売却するというモデルが多かったと思います。ただ、日本の場合、人を解雇するような大胆なコストカットは、規制面でも文化面でもハードルがある。それ以上に、そもそも中小企業の多くが人手不足という状況です。

そうした中で我々マイクロニティは、既存事業にAIを掛け合わせ、効率化にとどまらず、さらなる事業成長を目指している点が一つのポイントです(山﨑氏)。

従来型のバックオフィスや営業の支援に加え、いま同社が大きなチャレンジとして掲げるのが、AIエージェントによる事業そのものの自動化である。

グループ各社を実証フィールドとして「どの範囲まで自動化を実現できるか」を検証している。ターゲットはバーティカル領域に特化したB2Bソフトウェア企業で、マーケティング、問い合わせ業務、営業、契約、カスタマーサクセスというオペレーションが型化されているためAIとの相性がよい。

とくに契約期間中に発生する技術的な問い合わせ対応は、AIエージェントによる代替余地が大きいと見る。

6社のM&A実績とニッチ戦略——「AIに駆逐されない領域」への一点集中

マイクロニティはこれまでに累計6社のM&Aを完了している。

5月には、全国の眼科向け電子カルテ・画像検査ファイリングシステム等を手がけるビーライン(創業者 齊藤彰訓氏)をグループに迎えた。同社の状況と支援内容を、山﨑氏は次のように話す。

ほぼ30年間にわたって眼科業界に深く入り込んで、自社ソフトウェアを販売してきた会社です。社長が主体的に営業活動をして、週3日ほど全国各地を飛び回っているような状態でした。いわゆる『社長がいないと回らない』組織体制になっていて、片腕となる人材、マネジメントクラスの採用がなかなかできなかったという課題があったので、当社のブランド・採用力を駆使し、積極的な採用支援をしているところです(山﨑氏)。

各社が抱える課題は一様ではない。山﨑氏によれば最も多いのは採用とクラウド化・AI化だが、マーケティングや開発体制に至るまで、その悩みは幅広い。

マイクロニティはこうした国内の黒字のバーティカルソフトウェア企業を3,000〜4,000社程度と見立て、その一定割合をグループに迎え入れるアプローチを取る。

次のステップとなる海外について、山﨑氏は「ソフトウェア産業として中小ベンダーが存在する国は、北米、ヨーロッパ、日本、オーストラリアの4地域に限られる」と見る。それ以外の国は大手・財閥系が市場を握っているケースが多いという。将来的にオーストラリアを中心にAPAC市場へ事業を広げる構想だが、まずは国内で地歩を整えることに注力する。

このセグメントを選んだ理由のひとつに、「AIに取られにくい」点がある。山﨑氏は次のように説明する。

AIによって駆逐されない領域の一つが、とにかくニッチなバーティカル市場だと思います。理由としてはディストリビューションチャネルに食い込むことが非常に難しい領域なので、AIスタートアップが出てきたとしても入り込めない領域なんですよね。眼科のソフトウェアでいっても、国立大学の眼科の有名な先生・教授と一緒に勉強会を重ね、その先生が学会で発表した内容に沿って眼科医の方々が導入を検討する、といった従来からの業界固有の導入手法が存在するので、AIには取られないという前提はあります。ニッチであればニッチであるほどいい、というのが一つの戦略です(山﨑氏)。

完全AI自動化で「裏方」に徹するプラットフォーム戦略

中期的に山﨑氏が想定しているのは、「AIエージェントだけで事業が回っている会社」を一つ作ることだ。

グループ内のあるソフトウェア企業では、販売は全て代理店経由で、もともと営業組織がない体制となっており、マーケティング、カスタマーサクセス、受発注業務、会計業務等を完全自動化できれば事業が回る、と山﨑氏は見る。

AIエージェントだけで事業が回っている会社を一つ作りたい。そこまで来てはじめて「AI×事業承継」だと思うんですよね。事業責任者1人だけがいて、それ以外の業務は全て自動で回っている状態が理想です(山﨑氏)。

足元では、同社の元CTOが蓄積した技術問い合わせのデータをLLMに学習させ、「AI CTO」的なエージェントの開発を進めている。問い合わせの多くは代理店経由のテキストベースで完結するため、AI回答への抵抗感も小さいという。

技術的な質問に対する正答率は、すでに70%超で、そこからさらに自走で検証を行い精度を高めるAIエージェントの構成を構築している。

マイクロニティの運営方針を特徴づけるのは「裏方志向」である。M&A後の運営は基本的に各社にゆだねる自律分散型を採り、本部からの支援は要望ベースで提供する。たとえば社長後継が必要な企業には、社内役員や採用プールしているプロ経営者候補を派遣する。この姿勢を、山﨑氏は次のように説明する。

通常M&Aをすると、買い手が偉そうなポジションに立つことが多いんです。なるべく我々としては、買い手がマイクロニティというよりは、マイクロニティというプラットフォーム、エコシステムに参画頂くというコンセプトでの事業承継、というところを強調しています。社内では『親子関係』『買収』『本社』といった言葉も使わないようにしています(山﨑氏)。

主役はグループ各社とし、山﨑氏自身もあまり表には出ない方針を取る。「事業承継といえばマイクロニティ」と認識されるブランドを、社長個人ではなくプラットフォーム名で確立することを目指す。

社内のAI活用も、グループ会社の業務自動化と並行して進めている。AI推進組織(M-Lab)を率いるのは、JMDCでCTOを務めた小森谷一生氏。マイクロニティ単体の業務効率化に加え、各グループ会社で勉強会を開き、LLMの活用やAI駆動型開発の浸透も進めている。

組織形態についても、中長期を見据えた設計を進めている。中長期では中間持株会社単位でセグメントを切り、業種別(建設、自治体、医療など)や地域別(オーストラリア、シンガポールなど)にM&A体制を分散させる構想だ。

各中間持株会社ごとにCEO・CFO・M&A体制を構築する必要があり、新卒・中途を問わず「将来的に会社を経営したい人材」を中心に獲得を進める。

3年後には、マイクロニティ単体ではもうM&Aはしなくなる想定です。各中間持ち株会社単位での活動を積極的に行っていく予定です(山﨑氏)。

通常のスタートアップでは経営層のポストが詰まりやすく、昇格機会が限られるケースが多い。マイクロニティでは中間持株会社が増えるにつれ、各社で経営者ポジションが用意される設計になる。大企業の部長クラスで中小企業の経営に関心を持つ層も増えており、こうした経営機会を前面に出して採用を進めるとともに、AIエンジニアの募集も並行している。

山﨑氏は「グループ全体が巨大になったとしても、各社での経営はスピード感を持って回せるような組織戦略・人事戦略を、これから1年かけて作っていく」と話す。

三菱UFJイノベーション・パートナーズとの協業に期待

MUIP 戦略投資部 佐藤 可奈子/マイクロニティ 代表取締役の山﨑祐一郎氏/MUIP Chief Investment Officer 佐野尚志

MUIPを株主に迎えた背景について、山﨑氏は3つの軸を挙げる。一つ目はM&Aファイナンス、二つ目はグローバル展開、そして三つ目は、MUFGグループという「信頼」そのものである。

M&Aファイナンスはマイクロニティの事業戦略上、最重要テーマである。グローバル展開とあわせて、山﨑氏は次のように話す。

次のラウンドを含めて、継続的に資金調達が必要になってくるビジネスですので、そこに対してもMUIPさんは前向きにご検討いただけるCVCだと思っています。次のファイナンスを組み立てていく際のサポートや、海外展開する際の現地コネクションを含めたところへの支援を期待しています(山﨑氏)。

三つ目の「信頼」と、グループ各社のソフトウェア導入の可能性について、山﨑氏は次のように語る。

スタートアップにとって、MUFGグループという一つの信頼は大事です。承継元のオーナーからしてみても、株主に御社が入っているといったところは、一つの安心材料につながると思っています。我々には色々なソフトウェアがあるので、ぜひ御社グループへの導入を検討していただきたいなと思っています。スーパーニッチなものや、電子カルテのように直接該当しないものも多いですが、もしフィットするものがあれば導入いただきたいなと思っています(山﨑氏)。

創業から1年強で6社をグループ化したマイクロニティ。次の3年で、M&A体制を中間持株会社単位に分散させる構想と、AIエージェントで完結する事業会社の事例化が、どこまで実現するかが焦点となる。

AI×事業承継で挑むバーティカルソフトウェアの自律分散型エコシステム——マイクロニティが描く新しいM&Aのかたち