トークン化がもたらす金融変革の「3つの注目分野」——米国フィンテック専門VCが見る最前線

2026.04.23

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MUIP Innovation Day 2026のセッション「金融×生成AI:米国最新ユースケースと専門VCの視点」では、Commerce VenturesのFounder & General PartnerであるDan Rosen氏とPartnerのYsbrant Marcelis氏が登壇した。

2013年の設立以来、金融とコマースの交差領域に特化したテーマ型投資を行い、120社以上に出資してきた同社は、いま米国フィンテック市場を動かす2大テーマとして「トークン化」と「AI」を挙げる。本稿では、Dan氏とYsbrant氏が提示した「3つの注目分野」、ステーブルコイン、預金トークン化、証券トークン化を軸に、米国金融機関が直面する変革の全体像を紹介する。

ステーブルコイン——実需が牽引する爆発的成長

Dan氏が挙げた第1の注目分野がステーブルコインである。消費者間の国境を越えたリアルタイム送金、グローバルなコントラクターや従業員への夜間・週末を含む即時支払いなど、現実のビジネスニーズを起点に、実装レベルでの普及が加速している。

これはもはや開発段階の技術ではありません。本当のビジネス価値が推進力になっています(Dan氏)。

Commerce Venturesは、約2年前からステーブルコイン決済をテーマとして追いかけてきた。その過程で、主要な金融機関やエンティティとの面談を通じて得た知見から、ステーブルコインの普及が銀行にとって深刻な脅威になり得ることを定量的に示した。Dan氏の試算によれば、米国のスーパーリージョナルバンク(大手地方銀行)において、純金利収入(NII)に2〜3%の影響が出る可能性がある。

1株当たりの業績という観点で考えれば、これは非常に大きなインパクトです(Dan氏)。

こうした脅威に対し、米国の銀行は3つの戦略で対応している。

第1に、預金トークン化への積極的な取り組みだ。ステーブルコインに決済需要が流出するリスクに対し、銀行自身が預金をトークン化することで主権を取り戻そうとしている。

第2に、ステーブルコイン企業は米国において依然として規制監督下の銀行を裏側のインフラとして必要とするため、銀行がこれらの企業のバンキングパートナーとなり法定通貨との接続口座を提供する動きだ。

そして第3が、ステーブルコインの機能をホワイトラベル化し、法人・大企業顧客向けにサービスとして展開・収益化するアプローチである。

預金・証券トークン化——銀行が主権を取り戻すインフラ改革

Commerce Ventures 創業者兼パートナーのDan Rosen氏

第2の注目分野は預金のトークン化(Tokenized Deposits)である。これは銀行にとって防御的な意味合いが強い。ステーブルコインに決済需要が流出するリスクに対し、銀行自身が預金をトークン化することで、決済インフラにおける主権を取り戻そうとする動きだ。

Commerce Venturesはこの領域について、LPである20社以上のMUFGを含む大手銀行や主要決済ネットワークとの対話から、銀行側の危機感が極めて高いことを把握している。Ysbrant氏は、預金トークン化が銀行にとって喫緊の戦略的テーマになりつつあることを示唆した。

第3の注目分野は証券のトークン化(Security Tokens)である。同イベントで後に登壇したAlpacaが、この領域の代表例として紹介された。Dan氏はこの3つの注目分野について、「採用段階はそれぞれ異なるものの、グローバルに急速な商業的トラクションが見られる」と述べた。

証券トークン化はステーブルコインに比べると普及の初期段階にあるが、既存の証券決済インフラを効率化する可能性が注目されている。

AIがもたらす生産性革命とコスト圧力

Commerce Ventures パートナーのYsbrant Marcelis氏

トークン化と並んでCommerce Venturesが時間を割いたのが、AIの浸透である。米国大手金融機関が最もAIに注力しているのは、コスト削減と生産性向上の領域である。

米国トップ20の大手銀行と話をすると、クレジットアナリスト200人を削減したい、あるいは取締役会レベルで20%の全社共通費削減目標を掲げている、といった声が聞こえてきます(Ysbrant氏)。

AI導入の進展度合いとして、Ysbrant氏は3段階を示す。最も基礎的なレベルでは、ChatGPTやCursorなどの汎用AIツールを社内で活用するエンタープライズツール。中間では、既存ベンダーをAI搭載ベンダーに置き換える動きがある。

そして最も先端では、銀行固有のワークフロー向けに設計された専門的なAI機能の導入が進む。米国トップ20の銀行のすべてがChatGPT・Anthropic・Copilotなどのエンタープライズ稼働環境を導入済みであり、約80%が何らかのAI搭載機能を実装済みまたは実装中だとYsbrant氏は述べた。大手銀行の50〜90%の従業員が、日常的にAIを生産性向上に活用している。

Dan氏は前セッションに登壇したSakana AIのLlion氏の発言を引用し強調する。

AIに仕事を奪われることを心配する必要はありません。しかし、AIを使う人に仕事を奪われることは心配すべきです(Dan氏)。

Block(旧Square)が40%の人員削減を発表し株価が25%上昇した事例は、この変革の速度と株主からの圧力を象徴している。

AIネイティブ銀行——レガシーなき金融機関の出現

Commerce Venturesが米国フィンテック投資の歴史を3つのフェーズで捉えている点は、AIネイティブ銀行の展望を理解する上で重要だ。第1フェーズ(2013年〜)ではメインフレームやレガシーなバッチ処理基盤に代わる次世代インフラ企業であるBill、Marqeta、Socureなどへの投資が中心だった。第2フェーズではRobinhood、Chime、Brexといった次世代金融機関がそのインフラの上に構築された。

そして現在の第3フェーズでは、トークン化とAIという2つの力が金融インフラそのものを再定義しようとしている。

Commerce Venturesが注目するのが、レガシーテクノロジーではなくAIインフラの上にゼロから構築される次世代の金融機関——「AIネイティブ銀行」の出現だ。米国では数十年ぶりに新規銀行免許の規制緩和が進んでおり、従来の5〜10%の人員で金融機関を構築できる時代が近づいている。

まだAIネイティブなネオバンクは見つけていません。ただ、規制の少ない他の分野ではすでに出始めており、多くのAIネイティブ銀行が登場すると予想しています(Dan氏)。

トークン化された金融インフラとAIの融合が、既存の金融システムをどこまで変えるのか。Commerce Venturesの視座は、その変革がすでに始まっていることを示している。

トークン化がもたらす金融変革の「3つの注目分野」——米国フィンテック専門VCが見る最前線